最後の3月

武石さん、ぼくはあなたの記号です。記号とは独立した概念として生まれ、ぼくの実在とはかけ離れてゆくから、もしぼくが消えても記号は消えずにその残滓をとどめるでしょう。それはぼくの実在にとっても喜ばしいことであると思う。ぼくには何よりあなたをがっかりさせてしまうことが一番つらいことだから。ぼくの記号性をもっとも効率的に行使していたのはあなただ、そして記号の素晴らしいところは、記号はコミュニケーションの媒介として存在しうるということだ。そのようにしてぼくの記号が長らえるのだとしたら、(武石さんにとって)まことにもって慶賀すべきことである。ぼくはあなたに、贈りものをしよう。緑茶カテキンを1ケースだ。ぼくはかなしい。ぼくは死にたい。ぼくはろくでもない人間だ。ぼくには友達というものがなかったし、あるいはぼくの記号は数少ない友人。をつくることに成功した。だが昔からわかっていた予期していたことだが、ぼくの記号はぼくの実存を(あとでじわじわと)苦しめる。それはぼくがまだ大人でないからだろう。だから武石さんはぼくの記号を行使するのだ。だがそれでいい。ぼくも人嫌いなのだろうか?わからない。そう言い切ってしまえるほど、人に馴れていないのだ。ツケは必ず払わされるよ。と菊地さんも言っていたけど、まさにその通りだ。ぼくだって、こんなかたちで払うハメになるとは、あの頃は思ってもみなかったです。菊地さん、武石さん、ぼくはあなたに嫌われるような人間にはなりたくない。ちなみに武石さんはぼくの恋人でもなければ愛人でもなく、ぼくのひいきのお客さんです。