HITS1 JAZZ

HITS1 JAZZ

アトランティック、ワーナーから選りすぐりのジャズを集めたコンピ盤ですね。
いきなりコルトレーンの「ジャイアント・ステップス」からはじまるもんだから「ウオッ」と思ってしまいます。
ぼくはコレをジャズ知りたての頃に聴いていたので(本当にビル・エヴァンスくらいしか知らなかった)、誰が有名だとか何が名曲だとか全然わからなかったわけです。
それでもこのコンピには名曲・名演がゴッサリ入ってますね。冒頭の「ジャイアント・ステップ」は言わずもがなですが、ぼくの気に入ったところでは3曲目の「家路へ」。この変拍子を織り交ぜたクールなサウンドにはしびれましたね。と思ったらコレ、ジョショア・レッドマンだったんだなあ!あとは5曲目の「チュニジアの夜」。ローランド・ハナのトリオでの演奏。チュニジアの夜、といえばぼくは真っ先にこの曲を思い浮かべますね。ラテン風の熱いビートとキレがいつまでも新しいと思う。あとはソニー・スティットの「コンファーメイション」も入ってる。これはアート・ブレイキーの「バードランドの夜」に入ってるのが一番好きだけど、この演奏もストレートで良いです。サイラス・チェスナットの「マクダディ」は新しい録音。これが入ってるCD「レヴェレイション」も買いました。このトリオは良いですよ。最後にはキース・ジャレットの「マイ・バック・ペイジ」が。これはなんて良い曲なんだ!チャーリー・ヘイデン(だと思ったけど)のベースと言いキースの素晴らしいピアノと言い、決定的名演です。
でもそれより何より「テル・ミー・ア・ベッドタイム・ストーリー」。ハービー・ハンコック。この曲の愛しさったら無い!上の文章を改行しなかったのは、この曲さえ聴けば後はもう忘れちゃうから。何と言う幸運、何と言う幸福!ぼくは決してハービー・ハンコックさんを好きなわけではありません。というか彼のバックグラ以下略。でもこの曲だけは、頬ずりしたくなるほど好き。いやもう頬ずりしてるのかな?とにかく、素晴らしい。
軽くビートを撫でていき時折切り込んでくるドラムス、もうこれを聴いていれば幸せなのだけど、まるでおだやかな波のように波紋のように現れては消えていくメロディは、まさに「ベッドタイム」の不思議な物語。その神秘は、知ろうと耳を澄ませば済ますほど深淵へと潜り込んでしまいそうなほど微かでおぼろげで儚げ。エレピの衣擦れのような蠢きとフルート、ホーンの織り成す重厚でミステリアスなハーモニー。それを支え、導くドラムスにぼくは共鳴し、身体を揺り動かす。揺り動かさずにはいられないのだ。軽やかに間延びするその時間。これほどの幸福はちょっと他の曲では味わえないような気がする。何と言う安寧。
この曲を聴いてイメージされるのは、決まって1月の青空だ。ぼくはそのとき澄み切った青空をぼんやり眺めながら、朝っぱらからこの曲をリピートして聴いていた。風は冷たく、風景は漂泊されてしまった後のように味気なく、静かだった。まるで世界の淵のような日であり、ぼくはそのときそこから転げ落ちてしまったのかもしれない。あるいは片足でフラフラさまよい続けているのかも。という多少センチメンタルなのか悪い幻想のような記憶と結びついている。