Feelin' Good/Frank Cunimondo Trio and Lynn Marino

Feelin Good

声、というか節回しがブロッサム・ディアリーにそっくりなリン・マリーノ。どっちかというとピアノのフランク・カニモンドに興味があったのだけど、こういうポップでスマートなジャズボーカルを聴くのは良い。曲はあまり馴染みの無いものが多く、「余生はどうするんだい?」くらいしか知らないのだけど、「Feelin' Good」や「Beyound the Clouds」などのグルーヴィな曲が気持ちよくて、嬉しくなってワクワクする。
そんな中で見つけた!良い曲。が最後の「We've Only Just Begun」。カーペンターズみたいな曲だなーと思ったらカーペンターズの曲でした。ここではミドル・テンポでファンキーに。軽やかに弾むシンバルとスネアにウットリ。今さらカーペンターズの曲が良い!なんてどうなんだ、とも思えるのだけど、原曲には感じない「その向こう」まで届く感じがこの演奏にはある。後半のさり気なくも鋭いカニモンドのソロがまたそそる。何というかこの演奏は、少なくともぼくにとっては人生に起こり得る、あるいはかつて起こったのであろう、ささやかな、気づかないくらいにほんのささやかな奇跡のように思えるのだ。
多くのジャズは心に届く美しい音色を持っていてぼくを楽しませてくれるのだけど、心の機微をかきわけて「その向こう」に到達する音楽はそうは無い。そこにまで到達する音楽はぼくにとってはたとえば空気公団であるとか、グレイプバインであるとかシャーペンだとかHARCOとかそういうポップ・ミュージックであり、その意味でぼくはジャズ・ファンではないのかもしれない。ある日ぱったりとジャズを聴くのをやめて、大量の(とはいえ1,200枚程度ですが、それでも膨大な量だよね)ジャズCDを売り払ってしまう日が来るかもしれない。でも空気公団グレイプバインのCDを手放すことはおそらく無いだろう。
とはいえこの「We've Only Just Begun」のような曲がまだまだ存在する限り、ぼくは今しばらくはジャズを聴き続けると思う。